『肥満は万病のもと』ってホント?
~肥満と皮膚の病気との意外な関係~
山口大学大学院医学系研究科 皮膚科学講座
准教授 山口 道也 先生
「肥満は万病のもと」とよくいわれます。2008年からは特定検診(通称、メタボ検診)が始まり、「メタボ」、「かくれ肥満」、「BMI」などの言葉もよく耳にするようになりました。ここでは、そもそも肥満とは何か、なぜ肥満が万病のもとなのか、肥満があるとかかりやすい病気、また、皮膚の病気との意外な関係についてもご紹介します。
「肥満」「肥満症」「メタボリック
シンドローム」、
何が違うの?
肥満とは、体に脂肪が過剰に蓄積した“状態”を指す言葉で、肥満の判定に用いられる指標であるBMI*が25以上と定義されています1)。肥満には、皮膚のすぐ下に脂肪が蓄積する「皮下脂肪型肥満」と、内臓の周囲に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」の2つがありますが、より健康に悪影響があるといわれているのは内臓脂肪型肥満の方です。内臓脂肪が蓄積されると、体内に炎症を引き起こす物質(炎症性物質)が過剰に作り出され、糖尿病や心筋梗塞などの病気にかかりやすくなってしまうのです2)-4)。
*BMI:body mass index(体格指数)。 (体重,kg) ÷ (身長,m)2 により算出します。
肥満とよく似た言葉に「肥満症」があります。肥満症とは、BMIが25以上で、肥満に関連する健康障害(高血糖、脂質異常、高血圧など)が1つ以上ある、または内臓脂肪が蓄積した”病態”を指す言葉で、治療の対象となります(図1)。
肥満や肥満症と似たような意味合いで用いられがちな「メタボリックシンドローム」(通称:メタボ)は、厳密には内臓脂肪が蓄積し、かつ高血糖、脂質異常、高血圧のうち、2つ以上当てはまるものと定義されます。内臓脂肪量の簡便な指標として、ウエスト周囲長があり、男性85cm以上、女性90cm以上の場合、内臓脂肪が蓄積している可能性が高いと判断されます(図1)。肥満症が現在健康障害がなくても、将来的に肥満に伴う病気の発症が予測される方(ハイリスク肥満者)を含むのに対し、メタボリックシンドロームは、肥満の有無に関わらず、内臓脂肪の蓄積によってすでに健康障害を発症していることを示しているため、より様々な病気を引き起こしやすい状態にあるといえます。実際、メタボリックシンドロームの人は、そうでない人と比較して、2型糖尿病の発症リスクが3~6倍、心血管疾患のリスクが1.5~2倍であるといわれています5)。
肥満・メタボリックシンドロームと
関わりの深い「乾癬」
肥満・メタボリックシンドロームと生活習慣病の関係は、テレビの健康番組などでもよく話題になるのでご存じの方も多いと思います。しかし、肥満やメタボリックシンドロームが皮膚の病気とも関係が深いことはあまり知られていません。肥満やメタボリックシンドロームと関係の深い皮膚の病気、それが「乾癬」です。
乾癬とは、顔や身体の皮膚が赤く盛り上がる、細かいかさぶたのような皮膚がぽろぽろ剥がれ落ちる、といった症状があらわれる慢性的な皮膚の病気で、日本には人口の約0.3~0.4%、約43万~56万人の患者さんがいます6)7)。
乾癬患者さんでは、乾癬以外の皮膚病患者さんと比較してメタボリックシンドロームである割合が高いことが示されており(図2)8)、また、糖尿病1.71倍、脂質異常2.73倍、高血圧2.03倍と、メタボリックシンドロームに関連する疾患の併発率が高いことが報告されています9)。また、BMIが高いほど、乾癬を発症しやすいという報告や、メタボリックシンドロームのある乾癬患者さんでは、乾癬の重症度が高いことも報告されています10)11)。
なぜ、乾癬と肥満・メタボリックシンドロームの関係が深いのでしょうか。
それは、乾癬が体内で過剰に作られる炎症性物質を原因として発症する病気であり、内臓脂肪型肥満の脂肪細胞から作られる炎症性物質も、乾癬の発症や悪化に関与すると考えられているためです。また、肥満が乾癬の発症・悪化の要因ということだけではなく、乾癬の炎症と肥満に伴う炎症が重なることで、心筋梗塞などの心血管疾患のリスクもより高まる可能性があります(このような負の連鎖を“乾癬マーチ”と呼びます)12)。そのため、肥満の改善や予防は、乾癬の悪化を防ぐだけでなく、将来発症する可能性のある心血管疾患を防ぐためにも大切なのです。
肥満症・メタボリック
シンドロームを改善するために
肥満症の減量目標は、3~6ヵ月を目安に現体重の3%以上と設定されています1)。肥満改善のために基本となるのは、食事・運動・生活習慣の見直しです。食事による摂取エネルギーを減らし、運動による消費エネルギーを増やす。そして、生活習慣の見直しを行って問題点を把握したり、モチベーションを維持したりすることが重要です。
これからダイエットを考えているという方は是非、無理のない範囲で実践してください。具体的にどのように始めたらいいか分からない、という方は一度お医者さんに相談してみましょう。