みんなで考える市⺠公開講座シリーズ

「⽪膚の病気 患者さんの笑顔のために」
記録集
第1回
皮膚の病気の患者さんが
受ける誤解
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日時:2021年9月26日(日) 13:00~14:00
主催:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
後援:一般社団法人 INSPIRE JAPAN WPD
乾癬啓発普及協会/NPO法人 東京乾癬の会
P-PAT/

認定NPO法人 日本アレルギー友の会
皮膚の病気の患者さんが受ける誤解
~医師の立場から~
常深 裕一郎 先生 (埼玉医科大学 皮膚科 教授) 常深 裕一郎 先生 (埼玉医科大学 皮膚科 教授)
コロナ禍で浮き彫りになった
社会の“スティグマ”
本日は「皮膚の病気の患者さんが受ける誤解」をテーマに、患者さん自身が病気に対してどう向き合うべきか、そして周りの人が患者さんをどうサポートすべきかについてお話します。
「A君のお父さんはお医者さんなんだって!」「じゃあA君もコロナかも」「もうA君と遊ぶのはやめようね」―最近、このような言動を見聞きする機会があったかもしれません。新型コロナウイルス感染症が拡大し、不安や恐れが大きくなる中、医療従事者に対する差別や誤解が生じていることはマスコミ報道などでご存知だと思います。
ここでスティグマ(Stigma)という言葉をご紹介したいと思います。聞きなれない言葉ですが、もともとは古代ギリシャで押されていた「烙印」を意味し、その身分を示す役割がありました。これに対応するふさわしい日本語訳が見当たらないため、一般的に“スティグマ”と片仮名で表記されることが多いようです。A君のエピソードを例に挙げれば、A君のお父さんが医師であることは、そのような職業に従事しているという属性に過ぎません。医師としてどのような診察、治療を行っているかというような正確な情報はいっさい抜きにして、「病気=うつる」「医師だから感染している危険がある」と短絡的に結論付け、いわれなき差別の対象とする、これがスティグマとなります。
現代の「スティグマ」には、我々が属する国、人種、信仰、学歴や職業、そして性別、容姿、さらには障害などに対するものもあります。つまり、相手がどういう人かを知ろうともせず、「医師だから」あるいは「女性だから」「障害があるから」とパターン化し、それに対し「こうあるべきだ」「かわいそう」と周囲の人が決めつけることで、スティグマと化していくわけです。単語としてはなじみがないかもしれませんが、現象としては昔から存在しています。
皮膚の病気に対するスティグマ
皮膚の病気でも、同じようなことがあります。皮膚の病気は種類が多く、その原因もさまざまですが、皮膚の病気イコール「うつる病気」と思いこみ、「近寄らないようにしよう」と言う人はいます。
しかしながら、そのようなことを言う人はたいてい、病気のことや患者さんのことを詳しく知りません。それなのに、アトピー性皮膚炎の患者さんを前にして「顔や手に症状が出ている」「うつるかもしれない」「なるべく離れよう」と考え、実際にそれを行動にうつしてしまいます(図1)。
こうしたスティグマは、些細なきっかけで、誰の心の中にも生じる可能性があります。たとえば、街中で皮疹が出ている人に出くわし、「いったいなんの病気だろう」と知りたくなってネットで調べます。
ところが、ネットには正しい情報もあれば誤った情報も混在しています。もし、あるサイトに「うつる病気」と書かれてあれば、その情報を鵜呑みにし、実際に皮疹が出ている人を見ると避けるようになる、といった具合です。
このように、ちょっとした疑問を抱き、誤った情報に触れ、それを正しいと思い込むことで、気づかぬうちに差別を生み出す行動へとつながっていくのです。
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アトピー性皮膚炎とスティグマ
治療に悪影響を及ぼす
患者自身の「自己スティグマ」
このように、周りの人の思い込みや誤解によるものを「公的スティグマ」と言います。そして、もう一つ、重要なものとして「自己スティグマ」(図2)があります。「自己スティグマ」とは、当事者が当事者自身に対して持ってしまうスティグマのことを指します。
たとえば、「女性は率先して家事に取り組むべき」「肥満は本人の努力不足」といった考え方は公的スティグマの一例ですが、自己スティグマはこれらの裏返しのようなもので、「私は女性だから慎ましくしないと」「肥満体型なのは自分が悪い」という考え方となります。
皮膚の病気も、「うつるかもしれないからなるべく離れよう」が公的スティグマだとすると、自己スティグマは患者さん自身が「きっと自分は周囲から避けられるだろう」と思い込み、「皮膚を出さないようにしよう」「外出しないでおこう」と考えるようになることです。
自己スティグマのさらなる問題は、患者さん自身が「助けを求めること(=援助希求行動)」をしなくなってしまうという点にあります。本来、病気であれば治療により症状を改善し、寛解・治癒をめざします。ところが、自己スティグマを持つ患者さんは、「病気は自分の責任だから」と受診をためらうようになり、それにより症状が改善せず、場合によっては悪化し、ますます自己スティグマが強くなるという悪循環に陥ってしまうのです。
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自己スティグマ
正しい知識を持つことの重要性
冒頭からお話しているように、スティグマは、まったく根拠のない所からスタートします。ということは、皆さんが正しい知識を身につけ、誤った情報に振り回されないようになれば、スティグマは解消できるはずです。
大切なのは、あらゆる病気に共通する事柄ですが、病気を持っているということはその方(患者さん)の一部の性質にしか過ぎないということです。つまり、患者であることがその人のすべてではないと、患者さん自身も周りの人もしっかり認識すべきです。
そして、我々医療従事者は、皆さんが正しい知識を身につけられるよう、積極的に情報発信していく必要があります。医療技術は日進月歩で、とくに近年の進歩はめざましいものがあります。それはアトピー性皮膚炎の領域においても言えることです。このような進歩による恩恵を多くの患者さんが受けられるよう、患者さんと周囲の人が正しい知識を身につけ、病気による誤解や差別のない社会が実現すれば良いと思います。
最後に~患者さんへのメッセージ
本日は、スティグマという言葉を用いながら、皮膚の病気との向き合い方についてお話しました。スティグマのない社会に向けて重要なことは、病気とはその人の属性のごく一部にしか過ぎず、その認識を社会全体で共有し、正しい知識を持ち、適切な行動に出ることです。それにより、アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚の病気のより良い診断と治療につながっていくことを期待します。
そして最後に、医師の立場から患者さんにお伝えしたいメッセージがあります。それは、患者さんは、けっして病気の治療のために生きてるわけではないということです。
病気を知り、前向きに治療に取り組むことは重要ですが、治療はあくまで一つの手段に過ぎません。
治療が人生のすべてとは考えず、広い視点でもって、より良い人生を切り開いていってほしいと思います。
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皮膚の病気の患者さんが受ける誤解
~患者の立場から
丸山 恵理 さん
(認定NPO法人日本アレルギー友の会 副理事長)