みんなで考える市⺠公開講座シリーズ

「⽪膚の病気 患者さんの笑顔のために」
記録集
第3回
病気を理解し、
一歩踏み出すために
~医師・看護師と考える、
皮膚の病気への誤解~
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日時:2021年12月19日(日)13:00~14:00
主催:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
後援:一般社団法人 INSPIRE JAPAN WPD
乾癬啓発普及協会/NPO法人 東京乾癬の会
P-PAT/

認定NPO法人 日本アレルギー友の会
病気を理解し、一歩踏み出すために
~医師・看護師と考える、皮膚の
病気への誤解~(医師の立場から)
多田 弥生 先生(帝京大学医学部 皮膚科学講座 主任教授)
乾癬とは
本日は「病気を理解し、一歩踏み出すために」をテーマに、乾癬という皮膚の病気について、また乾癬患者さんが抱える苦しみついて、最後に周りの人がどのようなサポートができるかについてお話しします。
まず乾癬がどのような病気かをご説明します。乾癬は皮膚の炎症症状である発疹(皮疹)が体のあちこちに現れる病気です。乾癬の皮疹は、皮膚の一番外側にある表皮部分が厚くなるため、皮膚から少し盛り上がっているように見えます。皮疹の表面には白いフケのようなもの(鱗屑[りんせつ])が固着します。また、皮疹部の下では血管が増えているため、その血管を通る赤血球の色が目に見える皮膚の赤みとして反映されます。
乾癬の原因と免疫
乾癬の原因は一つではなく、患者さんごとに様々な要因がありますが、大きくは外的要因、遺伝的素因、内的要因に分けられます。
外的要因にはストレス、食生活、一部の薬剤などがあり、遺伝的素因とは乾癬を発症しやすい体質のことを指します。また、内的要因には肥満や糖尿病、脂質異常症などがあげられます。日本人では遺伝による影響は多くないと言われていますが、乾癬になりやすい、なりにくいという素因はあり、それに外的・内的な要因が二次的に重なることにより、免疫システムに異常が生じ乾癬の発症リスクが高まると考えられています。
では、そもそも免疫とは何でしょうか。イメージとしては、ウイルスや細菌から体を守る兵隊さんを想像していただければと思います。この兵隊さんの多くは、普段は白血球などの血液の成分に潜んでいて、ウイルスや細菌が侵入すると体を守るための戦いを始めます。しかし乾癬という病気では、そういった敵がいないにもかかわらず常に臨戦態勢となっていて、なにかのきっかけで戦いを始めてしまいます。そして、兵隊さんの武器に該当するサイトカインというタンパク質が皮膚に作用し、炎症を起こしてしまう。これが乾癬の発症メカニズムと考えられています。ですから乾癬の皮膚というのは、皮膚としては必ずしも悪い皮膚ではなく、ウイルスや細菌に対して強い皮膚であるということもできます。しかしながら、見た目に目立つ症状が出てきてしまうというところで、患者さんを苦しめてしまうことがあるのです。
乾癬とメタボの関係
先ほど、乾癬の原因における内的要因として、肥満や糖尿病、脂質異常症があるということをお話ししましたが、近年、これらの疾患のリスクを高めるメタボリックシンドロームと乾癬が関連していることが分かってきました。統計的には、一般の方と比較して乾癬患者さんではメタボリックシンドロームである割合が高いことが示されていますし1)、100kgを超えるような方が減量により糖尿病や皮疹の改善を示したという報告もあります2-4)。これは、先ほどお話した兵隊さんが脂肪細胞にも存在していて、兵隊さんから放たれたサイトカインが皮膚にも作用していることによると考えられています。ですので、もしこれからダイエットをしてみたいという患者さんがいらっしゃいましたら、皮疹の改善にもつながる可能性がありますので、主治医に相談し、無理のない範囲で実践してみていただくのもいいかもしれません。
1)
Gisondi P, et al. Br J Dermatol. 2007; 157: 68-73.
2)
Jensen P, et al. JAMA Dermatol. 2013; 149: 795-801.
3)
Farias MM, et al. Obes Surg. 2012; 22: 877-80.
4)
Hossler EW, et al. Br J Dermatol. 2013; 168: 660-1.
日常生活の工夫と治療について
ケブネル現象という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、外的な刺激をきっかけとして乾癬の皮疹がない皮膚にも皮疹ができてしまう現象をいいます。頭皮の鱗屑が気になるとどうしても洗髪時にゴシゴシしてしまうのですが、そのままにしているといずれ皮疹が出てきてしまいますので、ゴシゴシしてしまったなと思ったら必ず医師から処方されている外用剤などを塗ることが大切です。また、むくみなども皮膚が引っ張られることで皮疹が出やすくなりますので、立ち仕事などで足がむくんでしまった場合は、睡眠時に足を高く上げるなどの工夫をしていただければと思います。女性の場合は、下着の金属が当たる場所などに皮疹ができることがありますので、そのような場合には締め付けられたりしにくい、刺激の少ない下着への変更も検討されます。
乾癬では、ここまでお話ししたような皮疹以外にも、関節や眼において炎症が起こることもあります。症状に応じた乾癬の治療選択肢はたくさんありますので、治療の際には「爪が気になるので、爪をきれいにしてほしい」「頭皮のフケが気になるので頭皮をきれいにしたい」など、患者さんご自身の希望を医師や看護師に是非お伝えいただければと思います。
日常生活の工夫と治療について
患者さんを苦しめるスティグマ
乾癬は見た目に特徴的な症状が現れるため、身体的にも精神的にも日常生活の障害度が非常に高い疾患です。病気の症状に加え、乾癬患者さんを苦しめてしまうものの1つにスティグマがあります。スティグマとは、ある特定のカテゴリー・集団にネガティブなレッテルを貼り付けることで生じるもので、日本語にすると烙印というような意味があります。スティグマの対象になりやすい属性としては、依存症や肥満、そして経歴などといった本人の意志や努力次第で克服できると思われがちなもの、それから皮膚疾患や感染症といった外見が特徴的で、社会の中で少数なものが挙げられます。
スティグマが広がっていく際には、まずきっかけとなるスティグマ的言動があります。皮膚疾患でいえば「乾癬? 感染する病気だよね・・・?」といったような誤解に基づいた言動がそれにあたります。このようなスティグマ的言動により、その属性に対するイメージが形成されます。そのイメージにネガティブな価値観が付与されるという過程を経て、スティグマが広まっていきます。こうしたスティグマは、治療機会の阻害、自己肯定感の低下、社会的な孤立、ストレスにつながり、患者さんをさらに苦しめてしまうことがあるのです。
乾癬患者さんでは、「皮疹を周囲の人に見られてしまうといけない」、「フケが目立たないようにしなければならない」といった気遣いから、真夏でも長袖、長ズボンを身に着けたり、黒っぽい服を避けたりするような方がいます。また、たとえ症状が改善されても、心の中にスティグマが残っており、「いまの状態が続くかどうか、不安で仕方ない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。ですから、患者さんの周囲の方には、患者さんの語りに耳を傾けて、疾患を正しく理解していただきたいと思います。
患者さんを苦しめるスティグマ
最後に~患者さんへのメッセージ~
乾癬治療の目的は、患者さんが抱えるさまざまな悩みの解決にあります。患者さんがイキイキとした毎日を過ごすためには周囲の方の理解とサポートが欠かせません。患者さんのご家族、身近に乾癬患者さんがいる方には、そのことをよくご理解いただき、サポートをお願いできればと思います。
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病気を理解し、一歩踏み出すために
~医師・看護師と考える、皮膚の病気への誤解~
(看護師の立場から)
佐藤 博子 先生
(福島県立医科大学看護学部 基礎看護学部門 准教授)